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彼らと歩いた4年間

 ソチ五輪男子シングルフリーの結果を受けての栄光とその裏にある悲劇は思い描いたよりも痛烈すぎて、本気で苦しくなった。素直に、正直に告白すると、あたしは、パトリック・チャンが金メダルを取ってほしかったというよりは、彼が金メダルを逃した後の悲劇を見たくなかったという逃げの感情が大きかった。世界選手権を三度制した彼が負けてしまうという結末を直視できる自信があたしには全くなかったし、やっぱり直視することはできなかった。

 この4年、パトリック・チャンフィギュアスケート界を引っ張ってきたのは本当に間違いのないこと。バンクーバーのあと、精度の高すぎる4回転ジャンプを跳び始めたチャン。それから、あっさりそれをフリーに2回取り入れることにも成功した。それまで持っていたスケーティング力に加え、上昇気流に乗る中でコーチを変えるという博打みたいなことをしてまで表現する力を磨こうともした。機械みたいでつまんない、なんて今のチャンに言える人はいないだろう。そうして世界選手権を三連覇したチャンは、まさにトップに君臨したアスリートの真の姿だった。だからこそ心の中で無意識に、彼に悲劇は訪れて欲しくないって思ってた。そんな歴史はいらないって。

 深夜に羽生の金メダルが決まってメダリストの周回があったとき、横にいた母はちょっとだけ泣いてた。よくがんばったね、って。純粋に嬉しがっていたその姿をあたしは見ていられなかった。自分はこういう風には喜べなくて、その後ろめたさがあったから。

 羽生の金メダルが嬉しくないわけない。あの若さで海外に飛び出し、オーサーに師事することを決断する強さもある。正確な四回転。外すことのないトリプルアクセル。ショート、フリーともにあの難易度のプログラムを滑りきれる事は立派すぎる。足が震えてもジャンプを着氷できる強さもある、周りを見るけど意識しすぎない冷静さもある。金メダルにふさわしすぎる選手だ。それから、デニス・テンが銅メダルを取った事もとても喜ばしい事だった。天才のことについて語ったら長くなるから省略するけど、メダルは正直難しいと思ってた。でも思い切りやれば道は開けると書いたのも自分だったから、そうしてくれたのが嬉しかった。

 でも祝福より先に出てくる感情があることも本当で、それはプラスの感情じゃない。それはやっぱり複雑な気分にはなる。日本に金メダルがもたらされたという事の価値はとてもよくわかるし、素晴らしいことだ。そして19歳の金メダルに日本中が沸かないわけがない。そことのコントラストもあってしんどいんだ。

 この感情が正当なことなのかはわからない。やっぱり日本国民としてはおかしいって詰る人も、フィギュアスケートファンとしては正当だと言う人も、ただの逃げだと言う人もいるのだろう。日本人だけを純粋に応援しない事だって、まだいろいろな人に「それは正しいことだ」と言ってもらわないとまだ自信が持てない。

 でも、4年前した後悔は二度としたくないから、こうやって文章を紡いでいる。

 4年前のバンクーバーでは、感じた事を誰にも言わずにぐっと飲み込んだ。ただ、日本国民としての優等生を演じた。ユナ子の金メダルに手放しに喜ばず、四回転を一度も降りられなかったブライアンに対してはただ泣いて、それだけで終わった。でも、それは結局のところ意味がないんだ。耐えられなくて、決壊しちゃうもの。それで、決壊した後に来るのは、あのときこうしておけばよかった、っていう後悔。

 あたしは、あたしなりの向き合い方でこのスポーツをバンクーバーから4年見てきた自信はある。そこで、あたしは日本国民だけど、きっとフィギュアスケートという枠においてはそこに縛られる事などなにもなくて、応援するだけならただ自由で居られる。そうでなくちゃ、このスポーツを見る意味なんてなくなってしまう、って気づいた。

 だからどんな結果だったとしても、嬉しいなら嬉しいと、悲しいなら悲しいと言えばいい。好きなら好きと叫べばいい。

 ……って自分に言い聞かせていないと、今は立っていられない。

 

 だからこそ、女子でもちゃんと向き合うと誓う。

 あたしはユナ子も好きだし、リプニツカヤも好き。ついでに言うとゴールドも好き。誰が金でもいいと思ってる。でも、今回の場合、15歳で出れるという幸運、今季積み上げてきた評価、そして彼女の実力を信じて、あたしはリプニツカヤに金メダルを取って欲しいって思ってる。彼女の納得する演技ができればそれでいい、というのもある。でも彼女は完璧じゃないと納得しないんだよね。そして彼女が完璧に滑れれば、その先には栄光があるはずだから。だから、金メダルを取って欲しい、って思ってる。

 でも、もしそうできなかったら?

 たとえば、真央ちゃんが金メダルを取って、日本中が沸いた、としたら?

 そのときは、真央ちゃんおめでとう……よりも先に、悲しくなると思う。リプニツカヤには団体の金メダルがあるとか、4年後がある、とはとても思えない気がする。そのときもちょっと複雑にはなるんだろうね。でもその感情をしまい込まないでいたい。泣きながらも、傷つきながらも、がんばったね、おかえり。って言える自信は誰よりもあるから。

 だって、大好きなんだ。

 君の事が、たとえ敗者となっても好きでたまらない。