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氷平線

氷平線 (文春文庫)

氷平線 (文春文庫)

 舞台は北海道。栄えている札幌ではなく、外れの方を舞台にしている。今より一昔前の男女の交わりを描いた6つの短編。

 恋愛小説、と呼べるものなのだけれど、この本を恋愛小説と名付けていいんだろうか?と思ってしまう。男が女に惹かれる。女が男に寄り添い付き合ってゆく。そのプロセスは他の小説と変わらないのに、舞台のせいなのか、文体のせいなのか、登場人物を取り巻く環境のせいなのか、そこに愛は存在しないように見える。さらりとした流麗な文体に綴られるのは、彼らに襲いかかる非情なまでの現実。そこで出会う男と女の間に理想論には存在しない。彼女を守るとか、彼を離さないとか、死ぬまで彼女を愛し続けるとか、彼しか見えないとか、そういう浮ついた台詞はたぶん、相手に情熱を持っているから出るのだろうけれど、この物語に出てくる人物たちには情熱が存在しない。ただ、寄り添っているだけ。だから愛が存在しないように見えるんだろうな。

 物語に救いはほとんど存在しない。彼らを取り巻く現実は、彼らを幸せにはせず、現実が劇的に好転することもなく、ほとんど現状と変わらないまま物語はいきなり輪を閉じる。このぱったりと私たちを見放したような終わり方がまた物語の冷たさをいっそう大きくさせる。こんな短編を6つぽん、とデビュー作で出せるのは見事としか言いようがない。

 とにかく救いのない物語の連続で、特に表題作の「置いていかれ方」が半端なくて本を閉じるときに戸惑ったほど。でもこの胸の締め付けられ方が、どこか心地よかったりするんだよなあ。文章が本当にとてもきれいで、読み進めるのが苦しくなくて、でも読み進めたらつらくなった。この感覚が嫌いじゃなくて、バッドエンドの小説を嫌いになれない。