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「次の試合が楽しみです」

 内藤 洋平選手の負傷について

 洋平ちゃんがベンチに戻ってきたのは京都との試合だった。9試合ぶりに試合に出て、ギラヴァンツはキムドンフィのカウンター一発で京都に逆転勝利した。自分はそのとき体調が悪くて西京極にも行けなくて、負のサイクル続きで、それに加えて洋平ちゃんのいる北九州と京都との試合だから複雑に思いながら見るんだろうなと思っていたのに、そうじゃなく、ドンフィの一発カウンターを見てあっさりと心から幸せと思う自分がいた。だってそこで、怪我から癒えて復帰できてサッカーできて、しかも古巣対決に勝利した内藤洋平がうれしくて笑ってるんだよ。あのとき、たぶん、自分は世界一幸せだって思った。何を裏切っても構わないから、私は今世界一幸せだと思うことを許してほしかった。

 そこからたくさんの月日が経った訳じゃない。熊本戦はとても楽しみにしていた。だって、久しぶりにスタメンで帰ってくるものだとばかり思っていたんだから。

 私は洋平ちゃんが週末にサッカーしてくれるってだけで幸せで、だから、ぶっちゃけ勝ち負けはどうでもよかった。ギラヴァンツ北九州が下位に低迷していたって、洋平ちゃんがいるならそれでいい、と最初は思っていた。高望みじゃない、と思いたいけれど、あのニュースが入った日、それさえも高望みだったのかなと繰り返し繰り返し思った。そのニュースを目にしたのは学校の最寄り駅で、私はそのとき一人だった。膝をつきそうになったのをぐっとこらえて、涙をぐっとこらえて、でもほとんど放心状態で、どうやって家に帰ったのかもあまりよく覚えていない。そこから数日間はどうしてなんだろうという思いが離れなかった。心を閉ざしたかった。できるだけ何も語りたくなかった。誰ともこの絶望を共有したくなかった。自分の心はサッカーからとても遠い場所にあった。戻ってこないとも思った。あれから、戻りつつあるけど、まだ全ては戻れていない気がする。

 ギラヴァンツ北九州というチームを私なりに見てきた中で、洋平ちゃんの京都で培った技術は北九州ではひときわ輝いていた。個人技に頼ることが多かった最初の5試合ほど、洋平ちゃんが右サイドでボールを持った瞬間の、きっと彼は何かをやってくれるという期待は京都にいたとき以上だった。岡山まで行ったときに、試合前、私は洋平ちゃんがこのチームで何か決定的なことをできるかどうか、このチームに認められるかどうかとても不安だったけれど、その不安は試合を見るとすぐに解消することができた。内藤洋平は確かに北九州の一員として認められつつあったと実感できたから。そしてその次の試合で洋平ちゃんは初ゴールを決めることになる。

 それから福岡との試合で怪我をしてしまったから試合数としては少なかったけれど、渡やドンフィを走らせるパスの正確さも、柿くんのどこからでもゴールを狙うストライカーとしての嗅覚を信じて送ったクロスも、そして自らゴールを狙って打つミドルシュートも、確実に北九州というチームの核として形成されていっていた。

 7点というギラヴァンツ北九州史上最多得点を取って熊本に快勝した試合後、控えGKの松本は洋平ちゃんのユニフォームを持ってゴール裏まで来てくれたそうだ。そして、それに答えて内藤コールをしてくれたゴール裏。洋平ちゃんがいない中で快勝した北九州のみんな、選手も、サポーターも、内藤洋平は北九州の一員であり、欠かせない存在であると証明してくれた。贔屓目じゃない、ハッタリじゃない、そこにあるのは本当に確かなものなのだと。

 たとえ大怪我をしてしまったとしても、洋平ちゃんがあのとき京都を離れ、ここまできた、北九州にきたという選択が間違ってるなんて思えない。だからこそ、私は洋平ちゃんを好きになってここまでくることができた。

 それに、ありがとうと言いたいから待っていたい。半年と聞いて心が折れてしまうと思った。サッカーなんて、と思った。本当に憎みかけた、嫌いになりかけた。でも、洋平ちゃんが大好きなものだって、洋平ちゃんと私を引き合わせてくれたものだってサッカーなんだ。そしてそれを気づかせてくれたのは、あの日の本城にいた全員で、やっぱりそれはサッカーなのだ。ダメになりそうなこともある。だけど、サッカーがなかったら、今まで私が洋平ちゃんからもらってきた幸せだって存在してなかったんじゃないの?それを、憎んでしまって、嫌ってしまって、背を向けてしまって、自分は不透明な半年後を迎えられるの?

 サッカーを愛したまま、待っていたい。自分は多分、そうできないほど弱くはないはずだ、と信じたい。

 今は、そう思います。死んでしまいそうなくらい悲しくて、苦しくて、痛かったし、今もその痛みは忘れられない。それでも、待つことしかできないから。それしかできないなら、それをやる。それは今までも、そうしてきたこと。

 だから、「次の試合が楽しみです」。